2012年4月9日月曜日

ホラービジネス 第二十一回


ホラービジネス 第21回


「ほらびじ第21回。今回のテーマは、んー、リクエストが来てたわね。読みなさい、莱穂」


「読みますよー。えーと、神奈川県在住の『フリードマン日本語学校』さんからです」


「スイゼンジキヨコ、サイコーデス!」


「眼にまつわるホラー・オカ話をリクエストします。中国古代の媚術や西洋の魔眼・邪眼、千里眼など」


「目ってこわいわよね」


「向こう横丁の糸屋の娘、姉は十六妹は十五、 諸国大名弓矢で殺し、糸屋の娘は目で殺す。目とは人体の中で最もオカルトな器官なのだ」


「で、リクエストについてはどうなの?」


「まず、邪眼、魔眼───いわゆるイーヴル・アイと古代中国の媚術、さらに千里眼の類を一緒に考えようとしちゃいかん。この3つは似て非なるものだからな」


「ほうほう」


「莱穂や、お前は邪眼と言われて何か思いつくものはあるか?」


「マンガですけど」


「いいよ」


「『幽遊白書』の飛影が邪眼師でした。千里眼も使えましたよ」


「これが、ゴチャゴチャにしてる良い例。マンガだから別にいいんだけどな」


「邪眼と千里眼を一緒にしちゃいけないのね?」


「それだけじゃないんだけどな。莱穂よぉ、そのキャラ はどこに邪眼があった?」


「額です」


「そう。手塚治虫の『三つ目が通る』でも、高田裕三の『3×3 EYES』でも、第3の目は額に現れる。それがなぜかわかるかね」


「みんな手塚のマネをしたから」


「それはまぁ、それでアタリなんだけどよぉ。額には、7つあるチャクラの1つ、第6のチャクラ、存在と知識を司る『アージュナー・チャクラ』と呼ばれるチャクラがある。これこそが、第3の目なのだ」


「ふーん」


「だが、これは邪眼じゃねぇ。チャクラはインドの、邪眼はインド、ヨーロッパ、アメリカ北部、中近東などのものだからな」


「インドにも邪眼があるじゃない」


「チャクラと邪眼は違うんだよ、さっきから言ってんだろボケ死ね。だから、飛影は邪眼師として間違ってると言いたいわけよ」


「マンガだからいいんじゃない?」


「そりゃ別にいいんだけどよ、あ� ��マンガは余りにも有名だろ。『邪眼とはこういうものだ』っつー先入観をまず平らにしてもらいてぇ。一緒にしちゃいけねぇんだな」


「はーい、一緒にしません」


sojourneyは何を意味する


「おう。で、邪眼とは何か。邪眼とは呪いだ」


「どういう呪い?」


「不幸になる」


「アバウトねぇ」


「アバウトだからこわいんだよ。人々の羨望や嫉妬を悪魔が運び、対象に不幸を与える。これが一つの邪眼」


「ん? それが邪眼なの?」


「なんだよ」


「邪眼に見られると不幸になるんじゃないの?」


「話を先取りすんなや。さっきも言ったけど、邪眼ってのは呪いだ。羨望や嫉妬の視線が呪いとなって不幸を運ぶのが邪眼なんだよ。他人の悪意による呪いを、一つの邪眼と呼んだわけだ」


「なんか、思ってるのとずいぶん違うわねぇ」


「そうですね」


「じゃ、お前ら� ��思ってるような邪眼について話そう。いわゆる、邪眼師たちだな」


「やっぱりそういうのがあるのね」


「と言っても、邪眼師ってのは魔女や呪術師のような───特殊な力を持っていると『思われている』人たちでな・・・こいつらだってやるこた何も変わらねぇんだ。相手を睨んで、それで相手が『呪われた』と思ってくれればそれで呪いは終了。あとは勝手に『呪われた』ヤツが自爆するからな」


「よくわかりません」


「んー、じゃ、莱穂の前に魔女が現れたとしよう。そいつは本物の魔女かどうかわかんねぇけど、とりあえず魔女と名乗ってる。で、そいつがお前を睨みつけて呪いをかけた。さて、お前はどう思うよ」


「こわいですよ、お祓いしてもらいますよ」


「いばるなら� �」


「気分悪いけど、気にしないようにするわ」


「あたしなら、ヨタ話もほどほどにしとけ、でおしまい。だけど、それぞれに呪いは発動する」


「でもでも、それは魔女さんが本物だったらですよね?」


「いや、偽だろうがなんだろうが関係ないよ。極端な話、そこらのおっさんでもいいし子供でもいい。だれでもいいんだよ。ようは、どれだけかけた呪いに『説得力』があるかどうかだ」


「説得力・・・」


「どれだけかけられた呪いに『信憑性』があるのか、と言い換えたほうがわかりやすいかもしれん。明らかに魔女っぽいヤツがかけた呪いと、そこらのおっさんがかけた呪い、お前らならどっちを信じる?」


「魔女」


「魔女ですよー」


「なんで?」

「だってホントっぽいじゃないですか」


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「そうだな、そっちのほうが『信憑性』がある。だから、呪いの強さとはイコール信憑性のことだ。どれだけ信じるに値する要素を含んでいるかが呪いの強さなんだよ。だから、おっさんのかける呪いは弱いんだ、信憑性がないから」


「なるほどー」


「しかし、ここでおっさんのかける呪いを無意味なものだと思ってはいけない。弱ければ弱いで、『呪いの重ねがけ』をすればいい」


「重ねがけ?」


「呪う回数を増やすんだ。莱穂よ、お前の前におっさんが出てきて、週に一度必ず呪いをかけたらどう思う? いつまでも無視していられるか?」


「うーん、週に一回ですかー・・・・・いつか信じちゃ� ��そうですね」


「そうやって時間をかけて呪いをかけてるうちに、お前の身になにか良くないことが起きたら? 『呪いのせいだ』と思わないでいられるか?」


「そんな都合良く、よくないことが起きるなんてないでしょうに」


「フン、そこが浅はかだと言うんだよ。道で転んだ、成績が下がった、仕事でミスをした、友達とケンカした、なんでもいいんだ。日常に腐るほど転がってる小さな小さなイヤなことが起きれば呪いは成功だ。相手が弱ければ弱いほど、日常の良くないことを呪いのせいにする。そうなりゃあとは放っておいたって疑心暗鬼で自爆するんだ。これが呪いだ」


「うーん・・・なるほど」


「だから、邪眼師の説明でも『特殊な力を持っていると思われている人たち』と言っ� �ろ? そう思われていることが大事なんだ、それが呪いの強さを決めるんだから」


「呪いの目を持ってるから邪眼師なんじゃないんですね」


「なぜ、呪いをかける人間が邪眼師と呼ばれたかというと、呪う際に睨みつける必要があったからだーな。だから、儀式などで人を呪うヤツは邪眼師と呼ばれない」


「呪いっていうのは、疑心暗鬼を煽ることで人を不幸にする技術のことなのね。で、睨むことで人を呪う魔女や呪術師を邪眼の持ち主──邪眼師と呼んだ、と」


「そういうこったな」


「なんか、イメージと全然違っちゃって残念ですね」


「ふぅむ、そいつは悪いことしたな。じゃ、ちょっとお前が喜びそうな話をするとしよう。実は、邪眼の持ち主は人間だけにとどまらない」


「動物も持ってるんですか?」


「うん。猫と蛇」


「猫? それは暗闇で目が光るから?」


「そう。まぁ、『猫の目は邪眼』と恐れられていたわけじゃぁないんだがね」


「黒猫は悪魔の使い、ですか?」


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「猫ってなぁ、なんだか不思議な生きもんでよぉ。特別なんかするってわけでもねぇのに、神だの悪魔だのと呼ばれてきたんだ。古代エジプトでは猫を神様として『猫崇拝』をしてたし、それはヨーロッパにも伝わった。5世紀から14世紀まではヨーロッパの人間も猫を神様の使いとして大事にしてた。イギリスにゃ猫を保護する法律までできたしな」


「それがどうして悪魔にされちゃったんですか?」


「ローマ法王インノセント8世が『猫は悪魔だ』と公式に発言したから」


「それはなんで? なんの根拠もなく言ったの?」


「猫迫害は魔女狩りと関係がある。まぁ、今回は『邪眼』の話だから『魔女と猫』についてはまた今 度にするけど・・・・明かりのない時代に、暗闇でギラリと光る猫の目は相当に不気味だったろうよ」


「猫の邪眼かぁ」


「次は蛇だな。『蛇に睨まれた蛙』って言葉があるだろ? 蛇の視線に射られた動物は身動きが取れなくなる。そこから、蛇の目は邪眼であると考えられた」


「あ、わかった。だから、メドゥサの頭には髪の毛じゃなくて蛇が生えてるのね」


「話を先取りすんなって言ってんだろ。まぁ、関係はあるのかもしれねぇけどな」


「メドゥサって、あの見られると石になっちゃうやつですか」


「そうだ。呪力の視線を持ってるのはメドゥサが一般的だが、ほかにもいっぱいいる。ギリシア語で『小さな
王』を意味するバジリスク、プリニウスが記した『博物誌』にある� �トブレパス、ケルト神話に登場するアイル
ランドの魔王バロール、イランの病魔アガシュ、ほかにはえぇと、なんかあったかな・・・」


「いっぱいですね」


「それだけ多くの人が、目という器官にオカルト的なものを感じてたってことだぁな」


「でも、邪眼ってこわいですね。睨まれるだけで不幸になっちゃうなんて」


「そうだな。しかし、防ぐ手段もちゃんとある」


「どうやったら防げるの?」


「マラカイト、日本だと孔雀石だな、を持てば大丈夫だ。対邪眼用のお守りとして、古来より珍重されてきた宝石だ。効果はそれだけにとどまらず、目を良くしてくれるとして古代エジプトでは粉末状のマラカイトがアイシャドーとして使われてたんだぜ」


「へー」


「� ��石ですかー。ちょっと中学生に買えるものじゃないですねー」


「邪眼なんざ迷信だから気にすんな。そもそも、呪いの類は気にしたら負けだからな。忘れちまえば何も起こらんよ」


「んー、気にしないって簡単に言いますけど、それって難しいですよ」



「さっき海が言ってたじゃない、邪眼とは呪いで、呪いの力は『信憑性』だって」


「うん」


「で、『信憑性』が薄くても、回数を重ねれば呪いは成立するのよね?」


「そう、相手にもよるがね」


「じゃ、呪われたら呪い返せばいいのよ。だれにでもできるんだし」


「なるほどー。それなら、宝石持ってなくてもダイジョブですねー」


「人を呪わば穴二つ」


「な、なによ」


「この穴二つの穴、なんだかわかってっか?」


「知らない」


「この穴は墓穴だ。一つは呪いの対象となる人物の入る穴、もう一つは・・・・」


「もう一つは・・・?」


「自分の入る穴だ。つまり、呪いなんぞで人� �不幸を願ってっと、それが必ず自分に返ってくるってこった。だから、易々と人を呪ったりするもんじゃねぇよ」


「じゃ、もし呪われたらどうするのよ」


「だから言ったろ、呪いってのは気にしたら負けだ。気にしなけりゃどんな高度な呪いも発動しないんだよ。忘れちまえ」


「忘れる・・・か。じゃ、普段から細かいことに気にしない、色々と無頓着な人間には呪いって効かないのね」


「そうだ。あたしみてぇにウダウダもの考える人間ほど効果がでけぇ。パッパラパーほど呪いにゃ強いんだ」


「そっか・・・・いいわねぇ」


「いいよなぁ・・・」


「なんでこっち見るんですかー!」


「いいわねぇ」


「いいよなぁ・・・」


「もう、信じらんない!」


「千里眼や媚術の話はまた今度な」



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