2012年4月20日金曜日

Ibanez WH10V2 Vs WH10(グレー) Vs WH10(ブラック)


Ibanez WH10V2 vs WH10(グレー) vs WH10(ブラック)

昨年、突如として衝撃的な復刻を果たしたIbanez WH10V2、オリジナルモデルにどのくらい近いのか、どこが違うのかというのはやはりきになるところだと思います。

私自身、発売されてすぐに買っては見たものの、オリジナルとの比較がやりたくて仕方が無くなってしまい、できるだけ安く入手できるオリジナルモデルを探して、ついにブラックとグレーの両方を見つけることができました。

さっそく、違いを見ていきたいと思います!

では、いってみましょう。

Ibanez WH10

こちらが今回レビューと比較を行う3台の「WH10」です。もともとWH10は、型番の「10」が示すとおり、TS10やCP10と同様の10シリーズの1つとして作られました。最初のグレーモデルが発売されたのは1987年で、1993年ごろに筐体がブラックに変更され、最終的に96年まで製作されていました。他にヴォリュームペダルの「VL10」や、ワウとファズを合わせた「WF10」等と共通のプラスチック筐体を採用していて、安価に買える手頃なワウペダルとして発売されたモデルです。

本体にはInput、Outputの他にチューナーアウトを搭載していて、またギター用とベース用に帯域を切り替えることの出来るスイッチと、「浅めのワウや普通のワウ、ディストーションのかかったような激しいワウまで(取扱説明書より)」を可変できるDepthコントロールが付けられています。

ワウのレンジは、ギターモードが350〜2.2kHz、ベースモードが175〜1.1kHzです。また、Depthコントロールはワウフィルタの「盛り上がり」を+6dbから+20dbまで可変させています。ちなみに、現行V2モデルのDepthコントロールは+6〜+12dbに変更されています。

WH10といえば、今でこそプレミアモデルとして有名ですが、発売当初はそこまで人気があったわけではないようです。回路的にみると一般的でクラシックな、VOXやCry Baby系のワウペダルとは全く違い、インダクタを使用せずにOpampを使って作られています。簡単に言えば、オートワウ系のエフェクターをエクスプレッションペダルを使ってコントロールしているような形です。そのため、「クラシカルなワウサウンド」を求めたプレイヤーにとっては違和感を感じる音色だったため、いわゆる「安いだけ」のB級エフェクター的扱いをされていたと聞きました。

その事情が一変するのは、世界的に多大な影響力を持つギタリスト、ジョン・フルシアンテさんがこのペダルを使っているということが雑誌等で知れ渡ってからです。結果的に、「ヴィンテージ」というには新しく、「高級」というにはあまりにもチープな作りのこのワウペダルが、ともすればヴィンテージのイタリア製ワウペダルを超えるような価格で取引されるようになってゆきます。そして昨年、熱望されていたリイシューモデルが発売となり、現在に至ります。

それでは、今回比較する3台のモデルをそれぞれ見てみましょう。

Ibanez WH10V2

まずは現行リイシューモデルです。特徴はなんといっても、オリジナルモデルの弱点だったプラスチックケースをアルミダイキャストケースに変更してきたことですね。機能や外観はオリジナルを踏襲。87〜93年まで作られたグレーモデルを復刻したものですね。海外でブラックモデルも出ているという噂を聞きましたが、現状定かではありません。

 

Ibanez WH10 グレーモデル

オリジナルのグレーモデルです。プラスチック筐体です。なんか安かったです。V2と同じくらいw

裏蓋のネジがちょっと欠品してます。プレイヤーズコンディションって感じですね。

Ibanez WH10 ブラックモデル


何年と拳馬車経ちましたでした

こちらはブラックのWH10。こちらは生産時期が93〜96年とグレーモデルの半分で、しかもジョン・フルシアンテのボード写真に載っていたのがブラックモデルだったということもあってか、基本的にグレーモデルよりもプレミアがついていることが多いです。「最初期モデル」より「後期モデル」の方が高いエフェクターってのも(無いことはないですが)珍しいです。偶然安く見つけたんですが、機種名の書かれたゴムがだいぶ変色してます。こっちもプレイヤーズコンディション、ですかね。

 

それでは、まずはそれぞれの違いを見ていきましょう。

※最初に書いておきますが、「そんなんどうでもええやん」って言いたくなるような細かいところまで比較します。見方によっては現行モデルへの言いがかりに見えるかもしれませんが、単純に違う部分を羅列しているだけです。そもそもリイシューモデルはケースの素材を変えて新しい金型から作られています。また、オリジナルとリイシューで「違う部分」をあえて作っていることもあります。それを踏まえた上で見ていただけたらと思います。

 

3台横並び。一番右がV2です。ケースサイズに違いはありませんね。よく見ると分かるかと思いますが、こうしてペダルを上げたとき、V2だけがほんの少し角度が浅くなります。

 

ペダル表面に付けられた「滑り止め」の部分です。右がV2です。逆三角形の模様(?)にプツプツとした点々がついているのがオリジナル、なにも付いていないのが現行です。また、オリジナルモデルは「WH10」と書かれたゴムと、ペダルに付けられた「ゴムを貼る部分」がぴったりと一致しているのに対し、現行モデルは一回り大きな溝が掘られています。

 

一応、オリジナル2機種も比較してみます・・・が、こちらは色以外に違いはありません。同じ金型から作られているでしょうから、当たり前ですけどね。

 

これは、WH10V2のペダル手前側の部分です。形状は完璧です。

 

同じ部分のオリジナルモデルの写真。オリジナルモデルは、ここに「Made in Japan」の文字が入っています。ブラックも同じです。

 

ペダル裏側です。現行モデルはCEマークやその他注意書きが裏蓋に記載されています。オリジナルモデルは何も書かれていません。

 

現行のMade in表記は裏蓋にあります。WH10V2はMade in Chinaです。

 

おもしろいのが、現行モデルの裏蓋にもアースをとるためのねじ穴が設けられているところです。オリジナルモデルはプラスチック筐体ですが、裏蓋には金属が使われています。多くのエフェクターのようにジャックからそのままアースをとることができないため、裏蓋のペダル手前側のネジに配線をして、アースをとっています。現行モデルはアルミボディなので、裏蓋にアースをとる必要はありませんが、なぜかオリジナルと同じ位置にネジ穴が存在しています。ネジは留められていません。

 

ペダルアウトプット側です。上からオリジナル(ブラック)、オリジナル(グレー)、WH10V2の順に重なっています。上の2つは色が違うだけで外観的な違いはありません。

 


ビル·クリントンは現在何をしている

オリジナルと現行モデルのアウトプット側です。よく見ると、GTR/BASS切り替えスイッチが、現行モデルではほんの少し小さくなっています。写真だとオリジナルモデルのノブにだけ線が入っているように見えますが、これは光の加減で、ノブ形状は完全に復刻されています。また・・・

 

オリジナルモデルの方がLEDが飛び出しています。これはブラックも同じなので、個体差ではなく、仕様の違いです。(この写真では、手前がオリジナル、奥がV2です。)

 

写真下がオリジナルです。ペダルと筐体を固定している棒が、オリジナルと現行では左右逆となっています。また、ペダル側面のフィンのような部分が、オリジナルモデルと比べると現行モデルの方が若干スマートな形状となっていますね。

 

インプット側の写真。ペダルと筐体を固定する「ネジ頭?」が、左右逆となっているのが分かると思います。

 

ペダル奥側。ペダルを奥に踏み込んだ状態の高さは、特に違いはありませんでした。インプット/アウトプットジャックはDCインプットの位置も全て同じですね。一番右がV2です。

 

しかし、「INPUT」や「OUTPUT」と書かれた文字が、写真右の現行はプリント?となっているのに対し、オリジナルモデルは打ち出し加工となっています。

 

現行モデルのフットスイッチ、およびペダル奥に設置されたゴム板です。

 

こちらはオリジナルモデルの同じ部分。現行は薄いゴム板が2枚なのに対し、オリジナルは厚いゴム板1枚です。高さは同じですね。フットスイッチ自体も変わっていますが、フットスイッチの高さも全く違っていますね。ちなみに、ペダルから内部基板につながる「クランク」の部分が、現行はまっすぐで、オリジナルはくの字型に曲がっています。ブラックモデルも同じく曲がっているんですが・・・これは仕様なのか使用によるものなのか不明です。(ギャグじゃないですw)

なお、WH10V2のゴム板やフットスイッチ部は、生産初期のもの(写真のもの)と現在のもので若干変更が加えられているらしいです。

 

ペダル裏側の写真、こちらは現行モデルです。

 

こちらはオリジナル。ペダルの裏側が格子状になっています。ブラックも同じです。現行はなっていません。

外観についての細かい違いはこんなもんでしょうか。では内部を見てみましょう。

 

現行V2の裏蓋を開けたところです。基板保護/絶縁用のシートが入れられています。

 

現行モデル基板裏側。パーツの載った表側の写真もありますが、比較のため先にオリジナルモデルの基板を見てみます。

 

オリジナル、グレーモデルの基板裏側です。オリジナルモデルはグレー、ブラック共に保護用のシートはありませんでした。

 


jornal tribuna DOノルテ

こちらはブラックモデルの基板です。全てレイアウトや配線が変わっていますね。というか3つとも全然違います。現行モデルのレイアウトや基板が変わっているのは当然ですが、オリジナルもここまで違っているのは驚きました。カラーの変わった時期と基板が変わった時期が一致するかどうかは不明ですが・・・基板だけ見るとグレーとブラックは完全に別バージョンだと言えますね。

 

WH10V2、基板表側です。全モデルとも、基板とLEDがハンダ付けされているんですが、オリジナルモデルはグレー、ブラックともにLEDが筐体に固定されていて、基板の表側を見ることはできませんでした。

 

現行V2のOPAMPです。LM358Pが採用されています。

 

といったところで、写真と見た目の比較は以上です。さきほども書いたとおり、どうでもいいような細かいところまで違う違うと書いていますが、別に私は現行モデルに全く不満があるわけではありません。ただ事実として、違う部分を挙げただけです。

では、レビューいってみましょう。

 

まず、WH10全モデルのワウペダルとしての操作性ですが、特に迷うようなことは全くありません。スイッチやノブも単純明快だと思います。InputとOutputがペダル奥に設置されているため、左右のスペースを有効に使うことができる反面、接続方法(アウトプットからアーチ状に接続した場合など)によってはパッチケーブルがペダル面より高くなってしまい、ペダルを奥まで踏み込んだとき、足がパッチケーブルに当たってしまうことがあるかもしれません。まぁ、そんなときはパッチケーブルを短くするか、左右のペダルを離せば良いだけなので特に問題はないと思います。

オリジナルモデルと現行モデルの操作性の違いといえば、やはりプラスチック筐体とメタル筐体による違いです。プラスチックの良い部分は、なによりも「軽さ」です。現行モデルもワウペダルとして考えれば驚異的に軽いんですが、オリジナルモデルはさらに軽いですので、持ち運びが楽ですね。

また、プラスチックのペダルはかなり「しなり」ます。そのためフットスイッチを押しやすい反面、丁寧に扱わないと折れたり割れたりすることがどうしてもあるようです。現行モデルはメタル筐体なので、全体重をかけるような踏み方をしてもがっしりとして安定しています。ただ、その代わりしなりがないため、フットスイッチを押してペダルのON/OFFを切り替えるにはオリジナルモデルよりも強く踏む必要があります。一長一短ですが、これはしょうがないですね。

 

では、音について書いてみます。まずは、「WH10」の特徴について。

WH10は、ワウペダルとしては異色の回路構成のペダルです。冒頭でも述べましたが、ワウペダルというよりも「フットコントロール型バンドパスフィルター」といった方が正しいモデルで、音もいわゆるクラシックワウとは違っています。

どう違っているかというと、ワウペダルは、出音全体が「ワ」から「ウ」に変化するようなエフェクトですが、WH10の場合「オ」と良いながら口を尖らせて、そのままあごを動かすような・・・「ワウ」じゃなく「ォアオ」的な音の変化をします。実際に弾いてみると、バンドパスフィルタの波形が高域から低域まで平行移動している様子が頭に浮かんでくるような音の変わり方です。そのため、ペダルの動きに対する音の変化はフラットです。多くのクラシックワウペダルはペダルの動きに対して変化の癖を持っていますが、WH10は全く癖がありません。スムーズでなめらか、かつ(Depthノブ次第で)過激な変化をします。本当に独特な音です。

それでは、グレーのオリジナル、ブラックのオリジナル、現行リイシューの違いはどうでしょうか。

まず、上に書いた基本的な「ワウのかかり方」に大きな違いはありません。どれもWH10特有のサウンドですね。他のワウペダルでは作ることの出来ない音です。逆に、これらの3モデルどれを使っても、クラシックなヴィンテージ系のワウサウンドを作ることはできません。


基本的な音の変化の仕方は同じですが、比較して音を出してみると、1台だけ明らかに違う音のモデルがあります。それはオリジナルのブラックモデル。他の2モデルと比べて、これだけ音がやわらかく、かなりスムーズな出音です。別の言い方をすれば、これだけ元気がありません。ヴォリュームも普通に使うには問題ありませんが、WH10特有のブースト感はありません。個体差かとも思ったんですが、ブラックモデルのレビューをいくつか読んでみたところ、仕様のようです。ブラックモデルとグレーモデルでは基板レイアウトだけでなく回路も少し変わっているらしく、それが出音に影響しているのだと思います。

これはあくまで憶測に過ぎないのですが、もしかするとWH10で「クラシックワウの音が出ない」という特性を改善するためにIbanez側で改変を行った結果が、上の写真で見て分かるとおりの基板の違いなのかもしれませんね。ブラックモデルもクラシックワウの音にはなっていないんですが、他2モデルよりも「普通のワウっぽい」音です。

また、現行V2モデルは、オリジナルグレーモデルよりも高域がすこし控えめで、その分低域が強めになっています。全体的な周波数が下に寄ったような感じですね。

Depthノブを最小の設定にすると、今度は現行V2モデルだけが違った音になります。オリジナルの両モデルは、Depthを最小にするとワウというよりもフットフェイザーのような音になるんですが、現行モデルでDepthを最小にするとほとんどエフェクトがかかっていないような音になります。ペダルを手前から奥まで一気に動かせば少しフェイザーっぽい音が出ますが、かなり浅いエフェクトです。

モードスイッチをBASSにすると、現行V2モデルの低域の強さがさらによく分かります。BASSモードでのとどろくような低域は、オリジナルモデルでは出すことの出来ない音で、これはこれですごい迫力です。逆にオリジナルモデルのGTRモードでDepthを上げたときの、強烈にギラっとするような高域はV2モデルには出せません。どちらの方が良いとは言えず、機材や好みによって印象も変わってくるとは思いますが・・・少なくともオリジナルのグレー、ブラック、そして現行モデルは全て「音が違う」モデルです。

ただ、現行モデルはオリジナルのグレーモデルと「非常に近い音」を作ることはできますね。生産国も違えば、筐体の素材も違い、当然パーツもオリジナルと100%同じものをそろえるのは不可能でしょうから、そう考えれば音が違うのは当然として、非常によく復刻されたモデルだと思います。同じIbanezの復刻モデルで、現行TS808 ReissueはオリジナルTS808と全く同じ音は出ませんが、誰も文句を言っていません。それと同等のレベルで復刻されたモデルだと思います。音は違いますが、文句を付けるようなレベルではないですね。どうしても「オリジナルの音」に、細部にわたってこだわりがある人でなければ、現行のWH10V2は、出音に関して十分に「完全復刻」と言って差し支えないと思います。

 

というわけで、Ibanez WH10を3つ、弾き比べてレビューしてみました。どのモデルが好みかと言われれば、オリジナルのグレーモデルの音が一番好きでした。しかし、どれか1台をライブ会場に持って行きなさいと言われれば、迷うことなく現行モデルを選びます。また、WH10の音を知りたいから今度スタジオに持ってきて、と言われたら、3つとも持って行きます。そういうレベルの違いですね。

それにしても、さすがに復刻慣れしてるというか・・・数々のモデルを復刻してきたIbanezだけあって、WH10V2は素晴らしいモデルですね。とても良いペダルです。

 

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